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2011年2月 2日 (水)

汲み置きでカルキが抜ける理由

 汲み置きでカルキ(残留塩素)が抜ける理屈を調べてみました。
 
5月に20匹のメダカを買ってきて、約10Lの水を入れた容器で屋外飼育をはじめました。
一晩あるいは昼間屋外日陰で2時間ほどの汲み置きの水道水で、毎日のように水槽の約三分の二の水を交換していました。
数日ごとに1匹ずつ死んで、
7月には2匹になってしまいました。
7月からは、カルキ抜き剤を使い始めました。
するとその後、12月現在まで、5ヶ月間、
5匹のメダカ(3匹は7月の唯一の産卵の2代目)は1匹も死にません。
カルキ抜き剤の威力に驚きました。
なぜ、私の汲み置きの水は失敗したのか、調べて見ました。

1 塩素ガスを水に溶かすとすぐに次亜塩素酸に変化する。

水道水は塩素ガス(Cl2)で殺菌しています。(次亜塩素酸ナトリウムの場合もある)
塩素ガスは水中に溶けるとすぐに、ほとんどが次亜塩素酸となり、その一部がさらに次亜塩素酸イオンになってしまいます。(式1,2参照)。

     式1          Cl2  + H2O   ⇔ HClO  + H+ + Cl-
           式2          HClO    ⇔  H+   + ClO-         (PKa=7.5)

塩素ガス(すなわち塩素分子)と次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの水中での組成分布はpHによって変わり、その様子は図1のようになります。

  図1 塩素ガスを水に溶かしたときのpHによる水溶液中の組成分布の変化(25℃)
Karuki_fig1

図1からわかるように、中性では次亜塩素酸が、アルカリ性では次亜塩素酸イオンが、酸性では塩素分子(塩素ガス)が多いことがわかります。
次亜塩素酸の酸解離定数PKaは7.5なので、pH=7の中性水溶液中での比率(%)は、

  Cl2 : 次亜塩素酸 : 次亜塩素酸イオン =  0 : 74 : 26

となります。

ちなみに、プールの消毒では塩素ガスの取り扱いは危険なので、次亜塩素酸ナトリウムか次亜塩素酸カルシウムを投入しておこないます。
その場合、水中で希釈されて、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンになります(式3)

     式3    2NaClO + H2O   →  2Na+  + ClO-   + HClO   + OH-

その組成分布は塩素ガスを溶かした場合の図1とまったく同じです。

2 次亜塩素酸を光分解するためには350nm以下の波長の紫外線が必要

塩酸や水酸化ナトリウムも当然水中に存在しますが、このようなppmレベルの低濃度では毒性にも溶液のpHにもまったく影響ありません。
次亜塩素酸はその強い酸化力のためppmレベルでも毒性を示します。殺菌力は、次亜塩素酸のほうが次亜塩素酸イオンよりも30~100倍強いので、水道水中でもプール中でも、殺菌力の正体は次亜塩素酸です。
水中の次亜塩素酸は、
  光
  高温
  高濃度
のいずれかの条件で容易に分解します。
光分解は、その化合物が光を吸収してくれなければ話になりません。
次亜塩素酸イオンの200~400nm(紫外部)および400~450nm(可視部の一部)の吸収スペクトルは図2のとおりです。
次亜塩素酸イオンが減れば次亜塩素酸も減ります。


           図2 次亜塩素酸ナトリウムの紫外可視吸収スペクトル
Fig2_jia3_2

図2からわかるように、次亜塩素酸の光分解は約250~350nmの範囲内に入る波長の光線を照射しないと分解できません。

3 太陽光で次亜塩素酸は光分解する

地表にふりそそぐ太陽光の光スペクトルは図3です。

                  図3 太陽光のスペクトル
Karuki_fig3

図3からわかるように太陽光は350nm以下の波長の光を含んでいます。
したがって、太陽光で次亜塩素酸を光分解することができます。

次亜塩素酸が光で分解して、安定で無臭の塩酸と酸素になることでカルキが抜けます。(式4)。
塩素分子も光に不安定ですが水溶液中に存在しません(式5)。

                          光
    式4              HClO  +  →  2HCl + O2
                     光    
     式5     2Cl2  + 2H2O   →  HCl + O2  

4 蛍光灯では次亜塩素酸が光分解しない

蛍光灯の光のスペクトルは図4です。

                 図4 蛍光灯の光のスペクトル
Fig4_luminesence_3
図4からわかるように蛍光灯は250~350nmの波長の光を含んでいません。
したがって、蛍光灯では次亜塩素酸を光分解することができないはずです。 

5 水道水を入れたペットボトル(PETボトル)に太陽光を当ててカルキ抜ができるか

ペットボトルに水道水を入れて室外においてカルキ抜きをしている人も多いようです。
バケツに比べて、四方八方から光が入るし、ほこりも入らないし、取り扱いやすいし、便利です。
処理後、塩素チェッカーでカルキが抜けたのを確認しているので問題ないのですが、近年、UV吸収型のPETボトルというのもあります。

ペットフィルム(PETフィルム)とUV吸収型のペットフィルム(PETフィルム)の吸収スペクトルは図5です。
 
                図5 PETフィルムの吸収スペクトル
Fig5_karuki_2

 図5からわかるように、通常のペットボトルは300~350nmの波長の光を透過します。
したがって、次亜塩素酸は光分解します。
一方、UV吸収型のペットボトルは400nm以下の波長の光は透過しませんから次亜塩素酸は光分解しません。
したがって、カルキ抜きにPETボトルを使用する人は、塩素をチェックするか、PETボトルの材質を調べる必要があります。それをすれば、PETボトルによるカルキ抜きは可能です。
実際には、UV吸収型ペットボトルを見たことがないのですが、多分、ミネラルウオーターの透明感の高いペットボトルはUV吸収型ではないと思います。(なぜなら、水に対して紫外線をカットする必要もないし、また、UVカットフィルムというのは一般にやや暗いものが多いし、さらにネットではペットボトルは紫外線を通すというのが多く、通さないという例は一例もないようだから)

6 かきまぜ、および底の浅い洗面器の使用は効果があるか

着色したポリバケツは外部からの紫外線を通さないと思います。また、内側での反射率は小さいと思います。
水の吸収スペクトルのピークは190nmなので水は太陽からの紫外線はほぼ100%透過します。
したがって、強い紫外線強度、垂直に近い照射角度からいって、夏の正午前後の汲み置きは底の浅い洗面器の使用の効果は小さいし、バケツを使用しても1時間ちょっとでカルキが抜けると思います。
一方、朝方、夕方、秋、冬は紫外線強度は弱いし、照射角度も低いので、カルキが抜ける時間も長くかかり、かつ底の浅い洗面器の使用、あるいは透明な容器の使用、さらには攪拌の効果も大きいと思います。
しかし、空気中や水中での散乱の度合いがよくわからないので、さらに調べる必要があるかもしれません。

7 メダカのLD50,1hr(1時間で半数が死ぬ濃度)

参考までに、
モスキートフィッシュ(カダヤシ、メダカの一種)が1時間で半数が死ぬ遊離塩素(次亜塩素酸+次亜塩素酸イオン)濃度は、  
                           pH 6.05では、 0.41mg/L
                              pH 8.42では、 1.28mg/L   です。
このpHの違いでは、次亜塩素酸のほうが次亜塩素酸イオンよりも4倍、毒性が強いです。
なお、
                              水道法では、 >0.1mg/L    と決められていますが、
実際の水道水中の遊離塩素濃度は、   0.2mg~1.0mg/L ぐらいです。
詳しくは、当ブログ「次亜塩素酸の殺菌作用と魚毒性」御覧ください。

8 まとめ

ネットなどの情報(たとえば参考資料1)と併せて考えれば、バケツ一杯の汲み置きによるカルキ抜きは、
   直射日光を水面に当てれば 1日
   日陰、曇りの日、冬の季節(日射が斜めすぎる)なら 3日
ほどすれば安全と思います。
   室内ではやらないほうがよいと思います。

また、
①塩素分子の蒸発、
②次亜塩素酸の蒸発
③次亜塩素酸の熱分解
④空気中の炭酸ガスの溶解による水溶液の酸性化に伴う塩素分子の発生と蒸発
⑤水中の微量有機物を酸化してトリハロメタン類になって揮発する
⑥水中に混入した微量の金属(銅、ニッケルなど)による触媒的分解

など、光分解以外の要因も考えられるが、いずれもその影響は少ない。

最初に述べたように、カルキの影響は、その時に出ることは少ないです。
数日後、数週間後、数ヵ月後に、弱い個体から、1匹また1匹と死んでいきます。
そのため、原因がカルキにあるとわかりずらいです。

8 参考資料

1 http://www.geocities.co.jp/NatureLand/3594/kaikata/enso.html  とそのなかの引用資料

2 http://article.pubs.nrc-cnrc.gc.ca/ppv/RPViewDoc?issn=1496-256X&volume=6&issue=3&startPage=277    

3 http://www.nutech-o3.com/files/photochemistry_11_01_06.pdf

4 http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/atom11archive/wwatch/appendix/a14_0691.pdf

5 http://blog.zaq.ne.jp/kazturtletortoise/article/83/  (紫外線の強度データ)

9 付録(参考資料2と3と4と5から)

9.1 紫外吸収スペクトル
次亜塩素酸      :  吸収極大 238nm(分子吸光係数ε=111)
次亜塩素酸ナトリウム:  吸収極大 292nm(分子吸光係数ε=352)

9.2 太陽光照射による半減時間t1/2(25℃、1次式なので濃度(HClO+ClO-)に無関係)
  pH=5.0   t1/2=0.69時間(41分)
 pH=7.0   t1/2=0.28時間(17分)
 pH=9.0   t1/2=0.11時間(7分)

9.3 290~390nm (UVAとUVB) 参考資料5より
 晴天屋外7月日向:  24800 μW/cm^2
 晴天屋外7月日陰:     490 μW/cm^2
 その他、秋(夏より大きく低下する)や室内などのデータがある。
 

 

 

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コメント

すとつの区別がつかないやつ増えたよな

初期にめだかが死んだのはカルキのせいじゃなくて、単なる水の換えすぎですね
毎日3分の2換水は(水を煩雑に変えないといけない)カメでもやらないレベルです

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